【要約】
他者に対して責任ある行動をとること、という人間にとっての真の「倫理」を否定している点で、経済学者は現代における「悪魔」の一員だと言える。それが顕著なのは環境問題に対する考え方においてである。経済学者は、「資本主義が前提とする私的所有制こそ諸悪の根源」だとする多くの人の考え方を否定し、私的所有制の下での自己利益の追求こそが環境破壊を防止する制度だと言う。しかしこの論理は、未来と現在の二つの世代の間の利害の対立を解消することができないという根源的な欠点を持っている。未来世代に環境の所有権を与えた上で、現代世代が未来世代と合理的な取引を行うというのであれば、現在世代は環境破壊的な経済活動を自主的に抑えるようになるであろうが、未来世代が未だ存在しない、したがって自分の権利を自分で行使できない本質的に無力な他者である以上、未来世代と現在世代の取引は論理的に不可能である。これはつまり、経済学者の言うような私有財産制では、環境問題が解決しないことを意味する。したがって現在世代には、自己利益の追求を抑え、無力な他者の利益の実現に責任を持って行動することが要請されることになる。しかし、この「倫理」は同時に現在、地球上で最も枯渇した資源であり、したがってまたその「倫理」的行動の実現が困難であることを示した点で、経済学者としての「私」はやはり「悪魔」の一員であると言えるのである。
【問6】(解説補足とREVIEW)
POINT①まずマーク問題の「コア」(解答に必要な要素)を取るのと同じ要領で、記述解答の中心を盛り込んだ「ラフ」(下書き)を作成する。
今回は、最初の設問チェックによってある程度ポイントが分かっていたので、本文を読んでいる際に記述に使う材料が見つかっている→第2段落。
悪魔 ⇔ (正義)
経済学者 ⇔ 倫理
という対立関係から、経済学者が「他者に対して責任ある行動をとること=倫理(=正義)」を否定する立場二あることがわかる。
したがってラフは-
(ラフ)他者に対して責任ある行動をとるという、人間の「倫理」的正義を否定するから。(37字)
という感じになる。しかし字数不足だ!その時は本日解説した「アレ」を使う!
《青木方式》
『記述のツボ』(字数が不足したら)理由説明問題は、「直接理由」の他に①間接理由(「直接理由」の『理由』)②傍線部の内容説明③「直接理由」の内容説明―を適宜プラス!!
(参考)「直接理由」とは?「間接理由」とは?
たとえば「彼が学校を休んだ理由」を求められて、その答えが「風邪を引いたから」だったとします。
この「風邪を引いたから」が、学校を休んだ「直接理由」です。
もしそれで説明不足というなら、次に「間接理由」をプラスします。
「間接理由」とは、「直接理由」の「理由」のことです。
この場合なら、「なぜ風邪を引いたのか」、その理由に当たるものをプラスすれば良いのです。
仮にそれが「裸のまま寝てしまったから」ならば、それが「間接理由」に当たります。
これらを合成するとー
〇彼は、裸のまま寝てしまい、風邪を引いてしまったから。
となりますね。
さらに、もしこれでも字数不足に陥る、あるいは「間接理由」が本文に見当たらないなら、先ほどの『記述のツボ』に書いたように、さらに「裸で寝てしまった理由」を付け足すか、あるいは「傍線部」の内容説明を付け加えます。
今回の傍線部が「彼が学校を休んだ」というものなら、これを説明したものを先の理由に付け足せば良い。
たとえばー
〇彼は、裸のまま寝てしまい、風邪を引いて学校にいくことが出来なくなってしまったから。
となります(二重傍線部に注目。ここが傍線部「学校を休んだ」の言い換え=内容説明です)。
これでもダメなら(あるいは以上に述べた材料が本文に見つからない、あるいは作れない場合は)、『記述のツボ』の③を使って「直接理由」の説明を付け加えます。
今回の場合なら「風邪を引いた」ことを説明したものを付け加えるのです。
たとえばー
〇彼は、裸のまま寝てしまい、風邪を引いて熱が高く、また咳もひどく、学校にいくことが出来なくなってしまったから。
となります(二重傍線部の部分が、「風邪を引いた」という直接理由の内容説明になっていることに注目して下さい)。
このように解答の字数を増やそうと思えばいくらでも増やせます。
しかし「変な材料」を本文から抜き出して「適当」に付け加えると、元の答えを台無しにしかねません。
『記述のツボ』を意識して、少しずつアレンジしていくのがコツです。料理の味付けと同じです(笑)
味が足らないからといって調味料ドバドバドバぁ~はNGなのです。
では、先ほどのラフを以上の『記述のツボ』で「料理」してみる。
(ラフ) 他者に対して責任ある行動をとるという、人間の「倫理」的正義を否定するから。
本文に「間接理由」があれば、それをプラスする。
なぜ、「(経済学者は)他者に対して責任ある行動をとるという、人間の『倫理』的正義を否定する」(ラフ)のか?
それは講義でも解説したように、経済学者が「自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進する」と考えているからだ。(6~7行目)
これを「間接理由」として「ラフ」にプラスする-
自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進すると考え、他者に対して責任ある行動をとるという、人間の「倫理」的正義を否定するから。(63字)
Wow!!まだ足りない!!それでは引き続き《青木方式》を使って、もう少し字数を調整する。
『記述のツボ』(字数が不足したら)理由説明問題は、「直接理由」の他に①間接理由(「直接理由」の『理由』)②傍線部の内容説明③「直接理由」の内容説明―を適宜プラス!!
この③を使う。③は「もう少し(だけ)」伸ばしたい時に、便利だ。
③から本文で何度も繰り返していた経済学者の考え方の本質「自己利益の追求」を詳しく説明することにする。なぜなら3段落に良い長さのフレーズがあるからだ。オタクの法則恐るべし。
4行目に「自分の安全と利得だけを意図している」とあるが、この「自分の安全と利得」は、「自己利益の追求」中の「自己利益」の具体的な中身だろう。したがってこれで「自己利益」を詳しく説明する。すると全体として-
自己の安全と利得をはじめとする、自己利益の追求こそが社会全体の利益を増進すると考え、他者に対して責任ある行動をとるという、人間の「倫理」的正義を否定するから。(78字)
となり完成します。
記述は魔法のように「パッ!!」と解答が出ません!!問題集とかに載っている「綺麗な解答」を眺めているだけでは記述力は伸びません。上記に示したような「法則」に基づいて「組み立てる」練習を何度も繰り返すことが大切です。
記述が文章法則が身に付く講座→「青木邦容のハイレベル現代文」(2015夏期講習会)→国公立二次で現代文を使う人や難関私立で記述を書く人は受講必須!!
《復習問題1ーどちらかというと私立向け》
本文48行目空欄Fには「倫理的」が入り、この箇所は「倫理的な存在となることが要請されている」という内容を含む文が完成するが、これはどういうことかを説明したひとつながりの語句を本文から10字以内で抜き出せ。(㊟解答は最下段にあるのでスクロールして確認のこと。)
《復習問題2ーどちらかというと国公立向け》
本文49行目「私は『悪魔』の一員として失格した」と言いながら、52~53行目「私も立派に『悪魔』としての役割を果たした」とあるが、これはどういうことか。120字程度で説明せよ。(㊟解答は最下段にあるのでスクロールして確認のこと。)
《解答1》
未来世代の権利を代行しなければならない (45~46行目) (補足)「倫理的な存在となることが要請されている」の「要請されている」が、「未来世代の権利を代行しなければならない 」の「代行しなければならない」に対応している点に着目!
《解答2》
経済学者の論理が追放した「倫理」を環境問題の解決に必要であるとした点では「悪魔」一員として失格だが、同時にその「倫理」が地球上で枯渇しており、環境問題の解決が、結局は「倫理」によっては不可能であることを暗示した点で「悪魔」的であるということ。 (121字)