2013夏期講習会『青木邦容の現代文』第1講小倉千加子『醬油と薔薇の日々―たのしくニョーボする時代』要約

安田成美の「薔薇っていう字、書ける?」というCMには、男女の力学を逆転させた所に生じる女のコケットリーの発見と、そのような遊戯的言語空間を女に許す、夫婦生活の安定性と恒常性の見通しが示されている。七〇年代のウーマン・リブにしろ、八〇年代のフェミニズムにしろ、女性が結婚生活、すなわち「醤油」というリアリズムに縛り付けられることに女性自身は抵抗してきた。しかし九〇年代のCMで安田成美はそうした「醤油」つまり日常生活が、妻がいつまでも幼くお洒落で初々しくあろうとすることで、男が幻想を抱くような「薔薇化」つまりロマンティツクな結婚生活に変貌させる可能性を示唆したのである。