2017夏期講習会『青木邦容の標準現代文』第2講岩井克人「資本主義と『人間』」要約&復習問題(私大・センターマーク用補充問題)

【要約】

フロイトによれば、人間の自己愛は過去に三度ほど大きな痛手を被ったという。つまり、人間は自らが中心であると思っていた世界から追放されたわけだ。しかし資本主義の歴史を振り返れば、もう一つの傷があることに気付く。「ヴェニスの商人」に象徴される商業資本主義は、あくまで差異が利潤を生み出すとしたが、現在進行中のポスト産業資本主義においても、差異そのものである情報を商品化して利潤を生み出している点で、同様の資本主義の原理が見られる。それどころか、経済学が、労働する主体である人間を利潤の源泉であると説いた産業資本主義においても、結局は労働生産性と実質賃金率との間の差異を媒介にして利潤を生み出していた点で、「ヴェニスの商人」はそこに内在し続けていた。その意味で、資本主義の歴史において人間が富を創出する主体として存在できたことは一度もなかったことになる。これが人間の自己愛の四番目の傷の正体である。

 

《復習問題》

次の各問について、テキストと講義内容を参考にして答えよ(㊟解答は最下段)。

《問1》テキスト4~5行目「フロイト自身の無意識の発見によって自己意識が人間の心的世界の中心から追放された」とはどういうことか。次の中から適切なものを選べ。

①無意識の領域の発見によって、人間とは自己意識を持ち、その意識の主人として自由に行動できるという考えが否定され、常に無意識に支配された弱い存在であるということがわかったということ。

②無意識の領域が発見されたことで、人間の心の中の構造が判明し、そこにはそれまで人間の心的世界の中心と考えられていた自己意識は存在しないということがわかったということ。

③人間の自己意識、例えば自我が、人間の行動に大きく関わっていたと考えられていたことに替え、人間の行動には無意識の存在が大きく関わっていることが分かったということ。

④人間は、意識的な自我のエネルギーに従うだけのものでなく、無意識下のエネルギーがそこに加わって、はじめて人間の持つ様々な可能性を現実の行動に移せるということ。

 

《問2》テキスト本文80~82行目「差異性という抽象的な関係の背後にリカードやマルクス自身が措定してきた主体としての『人間』とは、まさに物神化、いや人神化の産物にほかならない」を説明した次の文の空欄A~Eに入る語句を次の選択肢の中から選び、文を完成させよ。

リカードやマルクスといった経済学者は、あらゆる商品の( A )は、その生産に必要な労働量によって規定されるという労働価値説を唱え、利潤の源泉を労働する主体としての( B )に求めていたが、実際は、商品の価値を決定し、利潤を資本家にもたらしていたのは、決して人間の( C )そのものではなく、都市と農村の( D )であり、農村の過剰人口が都市に流入することで( E )を抑えたことが利潤の源泉であったということ。

 [選択肢] ①効用 ②交換価値 ③人間 ④実質賃金率 ⑤労働 ⑥労働生産性 ⑦農民 ⑧人口差 ⑨都会

⑩産業革命 ⑪利潤 ⑫若者 ⑬共同体 ⑭品質 ⑮工場労働者 ⑯生活の差 ⑰賃金の差 ⑱労働者の不満

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《解答》

問1 ③

問2

A②

B③

C⑤

D⑧

E④