【要約】
学問で科学的にとらえた対象と、われわれ生きた人間がその中で住み生活をしているところの現実との間のギャップの存在に、専門家ならぬ生活者としてのわれわれも、科学者も気付いてはいるのだが、学問外の事情がそのギャップを見えにくくし、科学の独走を許してしまっている。近代科学は、対象を切り取り単純化することで科学的に正確な考察ができるとする。科学の方法がそういうものである以上、科学で掴み得たものは具体的なものそれ自体ではない。まともな科学者ならば、その点についての十分な認識があるが、亜流になると、既成の科学に溺れやすく、科学を信じ込みやすい。そうした科学信仰は、人文学の表示が人文科学の表示に代わるという現象も生み出している。さらにはその事態は文学研究にまで及び、文学的的確さをなおざりにして、科学的正確さのみひたすら追及する研究業績の氾濫を生み出している。科学によって得た認識と現実認識のギャップは、ある場合には科学の発達によって埋まってゆくが、ある場合には逆に、科学の発達そのものによって大きくもなり不明確にもされる。学問輸入国で、当初から学問信仰として学問が民衆に対立し、民衆の生活実感を押し潰す役割を果たしているところでは、特にそういうことが起こりやすい。
【問1】
(ア)業績 ①責務 ②人跡 ③累積 ④末席 ⑤紡績
(イ)優位 ①雄弁 ②有利 ③憂慮 ④優遇 ⑤勇敢
(ウ)気風 ①既製 ②気運 ③旗手 ④貴重 ⑤基調
(エ)信 ①求心力②真剣 ③信念 ④神秘 ⑤深刻
(オ)錯覚 ①自覚 ②改革 ③対角 ④隔離 ⑤格言
【復習問題】
本文テキスト64~65行目「さきほど私は、『A氏の人格がB氏のそれより10.5パーセント大きいなどとはさすがに数学信仰の国でも言わぬ』といったが」とあるが、筆者はこの表現を「そこまで及んでいると言い直さざるをえない」と前掲の表現をまさに「言い直し」ている。それによって何を言おうとしたのか、その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①人文学が科学よりも学問として一段したということが一般の人々の認識としても広まり、文学を読んでも人間そのものに注意しなくなったということ。
②日本が、科学の輸入国、ないしは加工輸出国であり、それぞれの分野での受け売り学問に身を固めた学者が跋扈している現実が明らかだということ。
③科学によって得た認識と現実認識のギャップが広がりすぎて、生命力や人格といった、本来は数量化できないものまでが数量化される時代になったということ。
④科学の成果に溺れ、それに眼を奪われて、科学的に見とどけたものだけを、対象の具体的全体として信じる風潮が急速に蔓延しているということ。
⑤生命力や人格といったものは、所詮は現実的基礎を持たない主観的なものであるが、それでも科学による数値化だけは避けなければならないということ。
【解答】④