【要約】
芸術というものは、理論さえ学べば後は個性に従って創作すれば良いというものではなく、幼い時の根本的な体験を土台として、ある芸術作品を手本にとり、理論を学びながら最初の試みにとりかかるものである。その手本が何かということは、その芸術家の一生を支配するものである。日本の芸術家にとって、西洋の大芸術は当然そのような手本になり得るが、彼らの根本的な体験はそうした見本と大きく隔たっている点で、成熟や円熟という形で根本的な体験につながる表現に迫っていくことは並大抵のことではないだろう。大芸術家の存在は、その国の芸術だけではなく、そこに住む街の人や市民の感受性の規制にまで及んでいく。花の生け方ひとつとっても、日本の生け方とヨーロッパのそれは大きく異なる。これは、過去の大芸術家が芸術として表した花の生け方が、それぞれの文化における原型あるいは根本的なものとなり、それが伝統として私たちの花の生け方に関する審美観に影響を与え続けているからに他ならない。
【問1】
テキスト巻末参照(103㌻)
【問2】
◯設問には「あるいは」が使われているので、一瞬「幸福」「不幸」どちらか片方の理由を説明すれば良いように思えるが、傍線部を見ると「時には不幸かも知れない」と、「不幸」である場合も多少なりともあることを暗示しているので、制限字数は少ないが一応両方の理由について触れるべきである。
◯青木方式27で一文にし、不足部分を補う形で傍線部内容を理解した後、その理由を考える。
◯不足部分「これ」の指す内容は「バッハ、モーツァルトと~ロシア人音楽家たち」を指す。これらは具体例なので抽象化すると8~10行目との対応から「大芸術(家)」と言い換えられる。
◯また青木方式28から傍線部の下に注目する。すると「国の芸術を決定づける」とある。
◯以上の情報を整理すると「大芸術(家)の存在が国の芸術を決定づける」となるため、それがどうして「幸福」「不幸」になるか推論する。
◯「幸福」→本文の内容から「手本」になることがわかる。「不幸」→36行目の「生け方をしてしまう」という表現や52行目の「規定し支配する」というやや強めの言い方から「国民の審美観などの感受性に関わるものを『縛ってしまう』=『あるものしか美しいとしなくなる』『美しいものを創る際に、手本になったものと似たようなものしか作れなくなる』」ということが考えられる。
◯以上を簡潔にまとめてみよう。
【解答例】大芸術家の存在は手本となる反面、感受性等の画一化を生むから。
【問3】
◯問2と関連している。
◯青木方式28から空欄の下をチェックすると、「それは芸術家の創作ばかりでなく、街の人、市民の感受性の規制にまで及んでいく」とあり、ここから空欄には、直前の段落の内容が大きく絡んでいることが分かる。
◯直前には問2で見たように、大芸術家の存在が後に来る数世紀の「それぞれの国の芸術を決定づける」ことが表されていた。
◯ということは、どの国でもそのような傾向があるということだ。
◯そういう内容に合うのは2しかない。
【問4】
◯違いを述べる場合は「Aは~(だが)Bは~」あるいは「Aは~なBとは異なり~」等という構文を意識し、はっきりそれらの違いが明らかになるように書くべし。
◯青木方式1及び青木方式9で本文読解時におおよその情報を拾っておくべき問題だった。
◯該当箇所は42~47行目。ここを先の構文でまとめる。
【解答例】西洋の生け方は華麗で重層的だが、日本は暗示的な生け方である。(30字)