2015夏期『上智大現代文』第2講松井邦子「『科学』の語りとその真理性」要約&復習問題

【要約】

患者にとっての病気とは、医科学的認識に捉えられる以外のものを、人生や生活の多様性から見て、広範囲に含むものだが、それが問題にされる場は専門技術体系の複合組織のひとつである医療機関である。その結果、患者にとっては病を包括する病気が問題であるのに、医師側は医学的認識に把握される「病気」しか問題にしない。こうした認識のズレは両者の間に軋轢が生じる原因になるが、たとえ患者が苛立って医師側を批判しても、医科学という真理に基づいた医師側にとってそれは、感情論、あるいは医科学的真理に対して真偽の対象ですらないものである。社会構成主義は、こうした現状を受けて「真理」を語る医師たちの科学的言説自体が、患者の語る感情論の言説と同じように、言語で構成された世界解釈の一つに過ぎないと考えた。医師の語る「真理」とは、医学を学び医学のルールを体得した者しか見いだせない「現実」であり、それは「ありのままの現実」ではなく「医学共同体における現実」として構成されたものでしかないのである。

 

《復習問題》

テキスト本文70行目「『がん』が『がん』と呼ばれる必然性はなくなる」とあるが、その理由として最も適切なものを次の中から選べ(㊟解答は最下段。スクロールして確認のこと)。

 

a 「丸い塊」を「がん」と呼ぶのは、あくまでも医学共同体における言語の共同体的作用に過ぎないから。

b 「がん」という言葉は独立した意味を持たず、「がん」以外の言葉との関係によってはじめて意味を持つから。

c 「がん」という言葉は、突起のある丸い塊として見いだせるものを認識する能力があってはじめて使えるから。

d 医学を体得した者でなければ見いだせない「がん」は、その他の人にとっては「丸い塊」でしかないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《解答》

a ( bは講義で説明した問4と同じで、「『がん』が『がん』と呼ばれる必然性はなくなる」の言い換えでしかなく「理由」になっていない。)